ミュージアム巡り 隅田川の名所 向島弘法大師境内之図

向島弘法大師境内之図

 寺島村の蓮華寺向島百花園とは道を挟んで向かいに位置し、寺号では蓮花寺と表記されている。「葛西志」によると、まずは鎌倉に建立されたが弘安3年(1280)、この地に移転したとある。

 本尊が空海自筆と伝わる弘法大師像であるため寺島大師の名で知られ、江戸時代に成立した絵図等を確認すると、蓮華寺の寺名ではなく弘法大師、あるいは大師と記されている。

 墨田区文化財として文化15年(1818)の年記のある道標が現存しており、そこには正面に“女人済度 御自筆 弘法大師”とあり、側面に“右 大しミち”“左 たいしみち”と入っている。

 右も左も大師道を示す不思議な表記の道標であるが、本基図の左右に記された大師は、この蓮華寺西新井大師を示すと考えられる。

 次は、「向島弘法大師境内之図」(天保年間・1830〜44頃、歌川貞虎画、版元:江崎屋辰蔵、大判錦絵三枚続)で、それぞれ遊ぶ子供達のシーンであるが、弘法大師の自画像を本尊とした向島蓮華寺が描かれている。

 本堂手前に樹木で作った帆船似のものがあり、蓮華寺では奇樹珍花を披露していたという噂とも重なる。また画面左に“仙女香”と、当時浮世絵上によく描かれていた白粉の宣伝提灯が見られる。

絵本江戸土産_1

 続いて、「絵本江戸土産」八編(文久元年・1861、二代歌川広重画、版元:菊屋幸三郎、縦18.2×横12.3cm)で、枝先が扇のような末広松が描かれ、蓮華寺の奇樹珍花が植樹された中でもこの松が唯一とされている。また、図中に“弘法大師を安置す”とあり、本尊が弘法大師であることを示している。

絵本江戸土産_2

 そして同じく「絵本江戸土産」八編(文久元年・1861、二代歌川広重画、版元:菊屋幸三郎、縦18.2×横12.3cm)で、庭が著名な蓮華寺が春から秋にかけて訪れる方も多かったと、画中上に“林泉殊に勝れたるにより春秋の間都下の騒人競ひてここに聚り”とある。

tabashio(墨田区横川1-16-3)